東京高等裁判所 昭和49年(う)1018号 決定 1974年7月04日
被告人 中野廣義
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二月に処する。
この裁判確定の日から二年間右の刑の執行を猶予する。
原審および当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
控訴の趣意は、弁護人水谷賢の控訴趣意書のとおりである。
一 理由を付さずまたは理由のくいちがいがあるという所論、すなわち、公安委員会が道路標識により最高速度二〇キロメートル毎時と指定した証拠がないのにこれを認めているという主張について。
原判決挙示の証拠を検討すれば、事件原票(捜査報告書)に「指定速度違反」という記載、速度測定カードに「A点の手前一三五mの地点に最高速度二〇キロの道路標識あり」(A点は、被告人車の速度を測定するため電波を投射した場所)の記載があること、被告人は検察事務官に対し「二〇キロの制限の標識はお巡りさんが検問をやつた場所の反対道路に立つていて、お巡りさんに教えられて見ると、確かに二〇キロ標識が立つているのが見えた」と述べ、原審公判廷でも、なんらこの点を争つていないこと、また、被告人は、最高速度二〇キロメートル毎時の道識標識と道路標示が写つている写真(写真撮影報告書)を示しての裁判官の質問に対しすなおに撮影されている道路について進行経路を述べていること等の事情を総合すると、原判決の「東京都公安委員会が道路標識によつて最高速度を二〇キロメートル毎時と定めた……道路において」という事実を十分に認めることができる(当審で取り調べた司法警察員の報告書も右の点を裏づけている)。論旨は理由がない。
二 事実誤認の所論、すなわち、指定最高速度超過の過失犯を故意犯と認めた誤りがあるという主張について。
被告人は原判示道路の指定制限速度が四〇キロメートル毎時であると思いながら、これをはるかにこえる時速約七〇キロメートルで進行したというものであつて、指定制限速度二〇キロメートル毎時を四〇キロメートル毎時と思つたという点で錯誤があるが、指定制限速度超過という認識の観点からは変りがないから、本件の場合故意犯が成立するとした原判決には誤りがない。論旨は理由がない。
三 量刑不当の所論について。
指定制限速度超過が大きいこと、昭和四三年から四八年七月までに速度違反の罪で七回罰金刑に処せられているにかかわらず本件に出ていること等に徴すれば、被告人の刑責は軽視しがたく、原判決の量刑も理解できる。しかし、本件を含めこれまでの速度違反はすべて急ぎの用があつたためのもので、高速を出すこと自体に興味をもつたためとは思われないこと、またこの間一度も事故などを起こしていないこと、すでに分別のある年齢に達し、深く悔悟の情を示していること等の諸点にかんがみると、このさい刑の執行を猶予して自覚による更生を期待するのが相当であると考えられる。この意味で結局論旨は理由がある。
そこで、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従いさらにつぎのとおり判決する。
原判決の確定した事実は道路交通法一一八条一項二号、二二条一項、四条一項、同法施行令一条の二第一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択して被告人を主文二項の刑に処し、刑の執行猶予につき刑法二五条一項を、訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文を適用して主文のとおり判決する。